東京地方裁判所 平成5年(ワ)3302号 判決 1994年9月20日
原告 株式会社第一勧業銀行
右代表者代表取締役 奥田正司
右訴訟代理人弁護士 尾崎昭夫
額田洋一
川上泰三
新保義隆
右訴訟復代理人弁護士 井口敬明
甲事件被告 株式会社日進
右代表者代表取締役 福岡勇次
乙事件被告 ダイヤモンド鉱業株式会社
右代表者代表取締役 福岡勇次
乙事件被告 福岡勇次
右三名訴訟代理人弁護士 鈴江辰男
右訴訟復代理人弁護士 下平坦
主文
一 甲事件被告株式会社日進は、原告に対し、金四一億三三四一万七一七八円及び内金三一億九九四二万六二七〇円に対する平成元年一二月一九日から支払済みまで年一四パーセント(年三六五日の日割計算とする。)の割合による金員を支払え。
二 乙事件被告ダイヤモンド鉱業株式会社は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫一記載の各土地につきなされた別紙登記目録≪省略≫記載一の各抵当権設定仮登記の、別紙物件目録二記載の各土地につきなされた別紙登記目録記載二の各抵当権設定仮登記の、各共同抵当権設定本登記手続をせよ。
三 乙事件被告福岡勇次は、原告に対し、別紙物件目録三記載の土地につきなされた別紙登記目録記載三の抵当権設定仮登記の共同抵当権設定本登記手続をせよ。
四 訴訟費用は、甲乙事件を通じて被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
甲事件、乙事件とも主文同旨
第二事案の概要
本件は、準消費貸借契約に基づく、貸金元本、既発生の利息及び遅延損害金の支払を求めた事件(甲事件)と、物上保証人に対し、右債権を被担保債権とする抵当権について、その設定仮登記の本登記手続を求めた事件(乙事件)である。
一 証拠により容易に認定し得る事実等
1 原告は、甲事件被告との間で昭和六二年九月四日、当座取引契約を締結した上、当座取引を開始したところ、別表≪省略≫記載のとおり、同年一〇月二二日から同年一二月二四日までの間に東京手形交換所を経由するなどして支払呈示を受けた甲事件被告振出にかかる小切手ないし約束手形について、右当座預金口座の決済資金の不足のため立替払いをし、その合計は三四億二四五〇万円であった(ただし、昭和六二年一〇月二二日に支払呈示を受けた額面三〇〇〇万円の小切手については、五〇万円を控除した残額である。)(≪証拠省略≫、証人岡田稔、乙事件被告兼同事件被告ダイヤモンド鉱業株式会社代表者兼甲事件被告株式会社日進代表者福岡勇次本人(以下単に「乙事件被告勇次」という。))。
2 甲事件被告は、昭和六二年一〇月下旬、東京地方裁判所における仮差押事件の保証金一億七五〇〇万円につき、支払保証による立担保許可を得たため、原告との間で支払保証委託契約を締結し、原告は右契約に基づいて、昭和六二年一〇月二七日、仮払金不渡提供金口から支出する方法により、前記保証金一億七五〇〇万円を甲事件被告に立て替えて支払った。(≪証拠省略≫、証人岡田稔、乙事件被告勇次)。
3 請求の趣旨記載のとおり、別紙物件目録一ないし三記載の各土地につきそれぞれ別紙登記目録記載の抵当権設定仮登記がなされている(当事者間に争いがない。)。
二 原告の主張
1 原告と甲事件被告は、福岡宣政(以下「宣政」という。)を介して、昭和六三年二月一〇日、前記一の1及び2の立替払金合計三五億九九五〇万円について、弁済期を同月二九日、利息及び遅延損害金をいずれも年一四パーセント(年三六五日の日割計算)とする準消費貸借契約を締結した(以下「本件準消費貸借契約」という。)。
2 原告と乙事件被告らは、宣政を介して、昭和六三年二月一〇日、右1の債務を担保するため、乙事件被告ダイヤモンド鉱業株式会社(以下「乙事件被告会社」という。)所有にかかる別紙物件目録一及び二記載の各土地について、及び乙事件被告勇次所有にかかる同目録三記載の土地について、それぞれ抵当権を設定する旨約した(以下「本件各抵当権設定契約」という。)。
3 別紙登記目録記載一ないし三の抵当権設定仮登記は、いずれも右合意に基づくものである。
4 その後、原告は、甲事件被告から、平成元年六月二一日三〇〇七万三七三〇円、同年一二月一八日三億七〇〇〇万円の弁済を受けて元本に充当したので、甲事件被告に対し、左記の金員の支払を求めると共に、乙事件被告らに対し、本件各抵当権設定契約に基づく各仮登記の本登記手続を求める。
記
(一)元本
三五億九九五〇万円のうち既払分を除いた三一億九九四二万六二七〇円
(二)利息
三五億九九五〇万円に対する昭和六三年二月一〇日から弁済期である同月二九日まで約定に基づく年一四パーセントの割合による利息二七六一万二六〇二円
(三)遅延損害金
三五億九九五〇万円に対する弁済期経過後である昭和六三年三月一日から平成元年六月二一日まで、内三五億六九四二万六二七〇円に対する同月二二日から同年一二月一八日までのいずれも約定に基づく年一四パーセントの割合による遅延損害金合計九億〇六三七万八三〇六円及び内三一億九九四二万六二七〇円に対する同月一九日から支払済みまで約定に基づく年一四パーセントの割合による遅延損害金(右の一四パーセントの割合は年三六五日の日割計算である。)
三 被告らの主張
甲事件被告及び乙事件被告らは、本件準消費貸借契約及び各抵当権設定契約について、いずれも宣政に対して右各契約締結の権限を与えたことはない。宣政が無断で右各契約証書を作成したものである。
四 争点
本件の準消費貸借契約証書(≪省略≫)及び抵当権設定契約証書(≪省略≫)は真正に成立したか。
第三争点に対する判断
一 証拠(証人岡田稔、同宣政、乙事件被告勇次(但し、後記措信しない部分を除く。)、文中掲記の証拠)によれば、
1 甲事件被告と乙事件被告会社とは、いずれも乙事件被告勇次経営にかかり、実際の業務内容、従業員も共通であるとともに登記簿上の住所を同じくする会社であり、更に右住所地は乙事件被告勇次の東京における事実上の自宅を兼ねるなどの関係にある会社であるところ、宣政は、乙事件被告勇次の実弟である上、昭和六三年ころは甲事件被告の専務取締役でもあったこと(≪証拠省略≫)、
2 実際、宣政は、被告会社ら(甲事件被告及び乙事件被告会社をいう。以下同じ)について、乙事件被告勇次の指示の下、預金やその払戻をするなどの業務に携わっていたが、さらに原告との取引に関しては、乙事件被告勇次の指示の下に、原告麹町支店課長名塚進との交渉を担当する外、手形の振出などを担当していたこと(≪証拠省略≫)、
3 昭和六三年当時、乙事件被告勇次は、同人並びに被告会社らの実印等(被告会社らについては代表印も含む。以下同じ)、及び同人並びに乙事件被告会社所有にかかる不動産の権利証を、前記同人の自宅兼被告会社らの住所地であった事務所の机の引出しに、特別の保管場所を設けて施錠した上保管していたところ、右引出しの鍵は、同人が保管していた外、宣政が事務員に預けて管理しており、宣政において必要があればいつでも取り出し得る状態であったこと(≪証拠省略≫)、実際、被告会社らの業務に使用するため、宣政が右実印等を乙事件被告勇次の個別的な了解をとらずに持ち出すこともあったこと、
4 宣政は、本件各契約締結に際しても、原告に対し、前記保管にかかる権利証及び乙事件被告勇次の印鑑登録証明書及び被告会社らの印鑑証明書いずれも持参し、また、被告らの実印等についても、これらを原告方に持参し、もしくは被告会社ら内において、本件準消費貸借契約証書及び本件各抵当権設定契約証書に押捺して使用していること(≪証拠省略≫)、
5 昭和六三年三月三〇日、当時の甲事件被告代理人らが原告に対して弁済猶予の申入れをした際、同被告代理人らは原告に対し、被告らについての右権利証、印鑑証明書等の預入を認める言動をとっていたが、乙事件被告勇次は、これを知っていたものの何ら異議を述べなかったこと(≪証拠省略≫)、
6 乙事件被告勇次は、別件訴訟(東京地方裁判所昭和六三年(ワ)第六八六九号)において、本件準消費貸借契約及び本件抵当権設定契約は、被告らの意思に基づいて締結されたが、右各契約書の作成は、宣政が行った旨供述していること(≪証拠省略≫)、
が、いずれも認められる。
以上の事実によると、≪証拠省略≫の準消費貸借契約証書及び≪証拠省略≫の抵当権設定契約証書は、いずれも被告らの意思に基づき作成されたものというべきである。右各証拠によれば、第二の二の1ないし3の各事実を認めることができる。
二 証人宣政は、乙事件被告勇次は、昭和六三年一月ころからは行方不明となり、宣政からは連絡がとれなくなっていた旨証言するが、一方、乙事件被告勇次本人尋問の結果によれば、同人は、同時期以降も会社には手形決済のための電話連絡をしており、宣政が原告との交渉にあたっていることは知っていたこと、加えて、同年二月ころに、当時の甲事件被告代理人が、原告麹町支店において、二〇億円の返済申入れをした事実も知っていたこと、がそれぞれ認められる上、同年三月八日付で乙事件被告勇次の印鑑証明書が原告に提出されていること(≪証拠省略≫、証人宣政)などの事実に照らし、採用できない。また、前記一の認定に反するその他の証人宣政の証言及び乙事件被告勇次本人の尋問結果については、いずれもあいまいな点が多く、一貫しないので採用することができない。
なお、抵当権設定契約証書(≪省略≫)が作成されたのが昭和六三年二月一〇日であり、右による仮登記手続がなされたのが同年四月二六日であって(≪証拠省略≫)、二か月以上も月日の経過があることは被告ら主張のとおりであるが、速やかに登記手続がなされていないからといって、前記認定を左右する事情とはいえない。
また、乙事件被告会社の本件抵当権設定契約の締結については、取締役会の決議の有無について争いがあるものの、仮に乙事件被告会社において、右決議を経ていなかったとしても、右契約締結は、内部的意思決定手続を欠くに止まるものであるから、相手方において右決議を経ていないことを知りまたは知り得るときでない限り、有効と解すべきであり、この点についての主張がない以上、本件の結論に影響を与えない。
三 よって、原告の請求はいずれも理由があるので認容し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤康 裁判官 稲葉重子 竹内努)